心が動く(又吉直樹と星野源)

 映画や音楽に涙が溢れて止まらない、みたいなことは私の中でしょっちゅう起こる。しかしこれが小説になると、なぜだかほとんどない。
 そんな私が、読みながら思わず泣いてしまった。
 又吉直樹著『火花』である。

「僕を嫌いな人達、笑わせてあげられなくて、ごめんなさい。」

 漫才師である主人公のことを、私はどうしても、作者である又吉と重ね合わせて読んでしまっていた。その彼(徳永)が、
「笑わせてあげられなくて申し訳ないと思った。常に芸人が面白いという幻想を持たせてあげられなくて残念に思った。」
 と言う。
 又吉自身の人柄に触れたようで、私はその、謙虚さというか、心根の優しさというか、“愛”みたいなものに打たれ、涙が出たのだった。


 小学生の時、ウンコを漏らしたことで軽いいじめに遭い、パニック障害から不安神経症を発症した星野源
 その暗い過去に、私は勝手に親近感を抱いてしまったりしていたが、そこには、彼と私とを決定的に分かつ部分があった。
 星野はそれでも、他者に対する“愛”のようなものを失くさなかった。彼の楽曲を聴けばよくわかる。
 また自分を“ネアカ”だと称する彼の、持って生まれた性質なのかもしれないが、その暗さをユーモアへと変換させたことは、彼の偉大な強さであり、作品の深さになった。


 この二人の作品を前にすると、彼らの肌の温かさを思い知らされる。
 “愛”のようなものがなければ、人の心は動かない。人から“愛”などいただけない。
 そしていつまで経ったって、私は私を救えない。

 

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