影響しあって、殺しあわない(坂元裕二『最高の離婚』)

 連続ドラマ「最高の離婚」を拝見したとき、この“坂元裕二”さんという脚本家は若い方なのかなという印象を持った。
 のちに、坂元氏がフジテレビ“月9”枠の伝説的連ドラ「東京ラブストーリー」の脚本を手掛けた大御所だと知り、私は改めて驚かされた。
 その、イマドキ感に。

 連ドラを毎週欠かさず観る、という習慣も長らく失くしてしまい、「それでも、生きてゆく」、「Woman」、「問題のあるレストラン」……その他数ある坂元脚本ドラマのどれもきちんとは観られていない。

 ここでは、二時間ドラマスペシャルで放映された「最高の離婚スペシャル」を取り上げてみる。
 何といってもこのドラマの魅力は、その“会話”にある。登場人物たちのキャラクターもまたおもしろいのであるが、彼らが小気味よく打ち合う、ユーモア溢れる会話のラリー。
 その中に坂元氏は、絶妙な固有名詞を持ち出してくるのである。
 例を挙げると、
(“ヤング宮崎駿”と称された三徳(岡田義徳)が、物真似をしろとせっつかれて)
「……生きねば」

ミスターチルドレンのメンバーで、桜井さん以外だと誰が好きですか?」

「こんなテラスハウスに出てきそうな女性と……」

「表向きは独身、中身は妻、です」
「コナンみたいですね」
 
 という具合である。
 まさに我々の普段の会話には、このように固有名詞がふんだんに盛り込まれているものだ。(しかしテレビドラマなどでは、おそらくそう簡単には使用できない制約やリスクがあるものと思われる)
 この目の付け所、そのチョイスのセンス。いわば坂元氏自身のおもしろセンスではなかろうか。
 これこそが、観ている者に感じさせる“イマドキ”感の正体の一つである。

 また、ツイッターでつぶやかれていたら思わずファボってしまいそうな名言も数多くある。
「まあ、モテて浮気しないのとモテなくて浮気しないのは違うからね」

「男の浮気を一回許したら、男は女のことを母親だと思うようになるんです。……許したら駄目だよ。一回でも裏切られたら捨てなきゃ駄目なんだよ」

 棘のように、心を刺したセリフがある。
「そのままでいいの。無理して合わせたら駄目なんだよ。合わせたら、死んでいくもん。わたしがあなたの中の好きだったところがだんだん死んでいくもん」
 そして結夏(尾野真千子)は光生(瑛太)に別れを告げる。

 ところで私は基本的に、ヘラヘラした男が好きである。一緒にいると、私もヘラヘラしていられる。
 しかし時折どうしても、どうしようもない私の暗さや深刻さは顔を出す。
 自分を長く生きてきた人間が、他人からの影響によってそう容易く根本的な性格まで変えたりしないにしろ、時として気分は相手に引きずられてしまう。
 たとえば“ポップで平和”だとか、周囲からそんな風に評されるようなその人の良い部分、私が好きだと思う部分に、翳りを差してしまうこと、まして私が殺してしまうようなことがあったら、それはなんだかとても悲しいことであるな、と勝手にしんみりしてしまったのだった。

 最後になるが、脚本とはやはり演じてもらってなんぼ、と個人的に感じた。
 脚本を文章として読み、自分の脳内役者にセリフを言わせるより、瑛太、尾野真千子真木よう子綾野剛が息を吹き込み、光生、結夏、灯里、諒がそこで生きるドラマを観る方が、私は断然おもしろいのであった。

 坂元氏は現在、2016年1月クールの月9ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の脚本を手掛けている。
 観たい観たいと切望しながら、諸々の事情によってそれはまだ叶っていない。

 

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